原子番号26

303月/110

専門家によるダグ・コップの「命の三角形」への批判


この記事は「命の三角形」への反論の一つで地震対策の研究をしているマーラ・ペタル博士によって書かれている「Rejoinder To Doug Copp.pdf(ダグ・コップへの答弁)」の翻訳になります。

前回の記事【「命の三角形」を信じてはいけない理由】も参照してください。

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ダグ・コップの「命の三角形」のアドバイスを読んだら良い情報だと思い、友人・知人に広めたくなるかもしれません。 ですが、誰かに話す前にどうか一度この文章を読んでください。 地震時の有効な対策が知りたいだけなら #1~#4 は飛ばして #5 と #6 に目を通してください。

#1 「命の三角形」の予測の神話

確かにコップの言う大きく重たい物の近くにできる「命の三角形」は存在します。 この「生き残れる空間」を救助隊は一番初めに捜索します。 ですが騙されないでください、地震時には大きく重たい物も激しく動きます。
ですから「建物が崩壊する前にどこに安全な空間ができるかわからない」ですし、仮に事前にわかったとしても「地震の揺れの中でその場所まで移動できるかかわからない」のです。 (もちろん、どこに安全か空間ができるかを研究する価値はありますが。) もし巨大な物の横にあなたがいる時に建物が揺れで傾いてしまえば、あなたは壁との間に押し潰されてしまうでしょう。

コップはLoma Prieta の地震について「車の中にいる人は車に押し潰されてした。 車の横にある安全な空間に逃げていれば助かったのに。」と述べていますが、これも同じ事です。 揺れがおさまってから潰れた車と安全な空間を見つけても何も意味がありません。 揺れで車やトラックが激しく動いていた証拠がいくつもあるので、もし誰もが車から降り車の横に寝転がっていたなら多くの人が車に踏み潰され重傷を負うか死亡していたでしょう。

コップはトルコで自身が体験した"経験"を根拠としていますが、残念ながらあまり知られていないことですがこれは全くもって"経験"などではありません。 どちらかといえば任意団体の捜索・救助訓練です。 トルコにいる私の同僚は解体予定のビルを捜索・救助訓練のために利用したのですが、その時の訓練ではマネキンが建物内のいくつかの場所に配置され、実際にいくつかのマネキンが大きく頑丈な物の横で無傷で見つかることがありました。

さて、では何が問題なのでしょう? 彼の主張が正しいように思えます。 問題点は単純なことです。 ビルをパンケーキ崩壊させるために訓練では柱を破壊しました。 つまり地震の再現を全く"していなかった"のです。 地震は波なので横揺れを生じ、その横揺れによって様々な損害を引き起こします。 訓練では横揺れを全く再現していないのですから、地震の際に何が起こるかがこの実験からでは何もわからないのです。 大きく重い家具が揺れで部屋の端から端まで移動していたかもしれません。もしパンケーキ崩壊の時の対策としてこの方法が正しいと仮定したとしても、そもそもパンケーキ崩壊を起こすコンクリート製の建物は少ないのです。 コジャエリ(トルコ)の地震ではパンケーキ崩壊は損壊した建物の3%に過ぎませんでした。 残りの97%と多くの無傷だった建物にいた人々には全く当てはまらない対策になります。

#2 「もし誰か一人の命を救えたら」という誤り

捜索救助隊は心の底より人を救いたがっています。 現実では彼らは2人の生存者を見つける間に98人の遺体を収容しています。 コップの言うように冷蔵庫の横で生存者が1人、もしくは10人発見されようがそれだけでは何の意味もありません。 あなたは100や1000の冷蔵庫の横にいた人がどうなったかを確認しなければならないのです。

もしコジャエリ(トルコ)の亡くなった20,000人の犠牲者に「命の三角形」のアドバイスをする事ができ、それで何人かの命を救えるなら私達は喜んでするでしょう。 ですが、それは15,000,000人の揺れを感じた人たち全員にアドバイスすることになるのです。 もし仮に1000人が「命の三角形」のアドバイスによって助かっていたとしても(ありえないでしょうが)、その .00007%の人達を救う代わりに、99.99993% の人達はより大きなリスクに晒されることになります。

以前私が見たトルコの映像でキッチンテーブルの下ではなく冷蔵庫とキッチンカウンターの横で身をかがめている人達が映されていましたが、彼らの顔は恐怖に歪んでいました。 彼らは冷蔵庫の転倒の危険や降ってくる冷蔵庫の中身、コンロの上にある熱い物、カウンターの上にある電気器具、棚の上の荷物。 明らかに彼らはテーブルの下に潜り込むべきでした。 ですが、この恐怖の空間こそが彼の言う「私が生存者を見つけた場所」なのです。 次のトルコの地震ではこの言葉のせいで何人かが死ぬでしょう。

私と同僚達は不安ながらも妥協案を出しました。もし自作のレンガの天井が重たい地震対策を全くしていない家の1階に住んでいて、すぐには安全な屋外に避難できない場合は彼のアドバイスに従った方が良いでしょう。 それ以外の場合は「何かの下にもぐって、じっとする」対策をすべきです。そもそも地震対策で有効なのは「揺れる前」に行う事のみです。 数々の研究によってわかってきていますが、建物が崩壊した時に生き延びる有効な手段は「運」のみです。

#3 コップのとんでもない誤り

コップの主張は常識はずれの過剰に誇張された表現がたくさんあります。 例えば「建物が倒壊したとき"潜って隠れる"対策をした人は全員が死んだ。 常に、たった一人の例外もなく。」などです。 コップは「可能ならば外壁を使うべきだ、避難通路は通れなくなっている可能性が高いからだ。」とも述べていますが、全く根拠のない主張です。 逆にコンクリート製の建物はタイルを詰め物として使っていれば外側に落ちる可能性があります。 もちろんその時はあなたも一緒に。これらは良い研究の対象ではありますが、現時点では検証されていない仮定に過ぎません。

わかってもらいたいのが最善の科学的手法を用いても常に完全で有益な結果が得られるわけではないのです。 それでも科学的手法は私たちの直感を詳しく検証するために使われるべきでしょう。 まだ答えが見つかってないな重要な問題はたくさんあります。 ですが、こんなバカげた答えに飛びつくべきではありません。

#4 コップの話のいくばくかの真実

コップは小さな安全な空間で生き延びるために「胎児の姿勢」を推奨しています。 小さければ小さいだけ落下物に当たる確率は下がりますから、できるだけ小さくなるというのは良い考えです。 ですが私達が実験で地震の揺れを再現したとき胎児の姿勢をしているとコロコロ転がり回ってしまうことがわかりました。 これはあんまり安全とは私たちには思えません。 ですので正座の姿勢で上半身をかがめるのが良いでしょう、これならコロコロ転がりませんし安全な場所にゆっくりですが移動できます。

コジャエリ(トルコ)の地震の調査によるとコップが主張する「ソファなどの大きく押せば縮み、横に空間を残す物の隣」は安全かもしれません。 この仮説は可能性が高そうですので、より詳しく調査すべきですね。

コップの言う「木造建築は地震の時にもっとも安全です。」は正しい主張です。 ただ、地震後の火事についてはもっとも危険です。 木造建築に住んでいる人は揺れている時に少し安心できるので、その時に火をすぐに消す心積もりをしておきましょう。

「夜、ベッドの中にいるときに地震が起きたら、横に転がり落ちましょう。」とコップは言います。 ですが実際、最も安全だった場所はカルフォルニアでもトルコでもベッドの上でした。 もし建物が傾いてベッドが動いたらベッドの真横はたぶん最高の場所とは言えないでしょう。

コップは「新聞社の中で紙は天井に押し潰されないことを発見した。」とも言っています。 紙の山が大きな空間を作り出すことはよくあるようです。 実際にトルコの地震でも大量の紙製品が作った隙間から生き延びた人の写真がありました。 ですが倫理的に考えて倒壊する危険がある家のすべての部屋に大量の本を縦積みするなら、引っ越したほうがよいでしょう。

現実的な話として、私達の仕事は地震とうまくやっていくことです。 コップのアドバイスのような物はただでさえ難しい一般人への知識の普及と地震対策をより難しくします。

「階段には近づくな。」ともコップは述べてますが、これは堅実なアドバイスですね。

#5 それで地震の時はどうすれば良いの?

・自分の家や職場でどこが安全か考えてみましょう。
・大きな家具は壁に固定し、重たいものを高いところに置かないようにしましょう。
・枕元に靴と懐中電灯を用意しましょう。
・揺れている間に地面に降ります。頭と首筋を守りしっかりした物につかまりましょう。

私達が繰り返し同じことを言うのは何故か? 証拠はあるのか?
複数の国の死亡・ケガの原因からわかっていることがあります。

a) 死亡はほぼすべて頭と首と胸の怪我に関連します。 この3箇所がもっとも体の中で傷つきやすく守るべき部位です。

b) 多くの怪我は落下が原因です。自分で降りるか、しっかりと掴まっていれば落下は防げます。

c) 夜間の怪我は大半が足と脚です。(被害の少ない地域でも) ライトもなく暗闇を裸足で家族を探したりするためです。

d) 少なくとも半分以上の怪我は建築物以外のものが原因です。 これらのケガの多くは深刻で、医療の不足がさらにそれを深刻にしています。 私たちは人命を救うために不必要な怪我の治療にリソースを割けないのです。

e) 体を小さくしてれば落下物に当たる確率は下がります。

#6 そして今あなたが考えることは…

都市地震を軽減するためには3つの重大な要素があります。

1.「予想し、計画をたてる」
2.「物理的な危険を減らす」
3.「いざという時」

1. 予想、計画
(今すぐ実行してください)
・家族と地震の時にどんなことがおきるか話し合う。
・緊急時に近場と遠場でどこに集まるかを決めておく。
・素早い連絡のために「エリア外の連絡先」を決めておく。
・緊急時に学校にいる子供を迎えに行ってくれる人を探し、どこで会うかを決めておく。

2. 自分自身を物理的に守る
(物理的な危険を減らすために対策してください。)
・家や仕事場や学校の建物の地震対策設計が不安な場合は専門家に調査してもらう。
・可能なら修繕し、不可能なら引越して解体する。
・重い家具を固定する。
・給湯装置の安全確認をする。
・消火器を各階に設置し、定期的に動作確認をする。

3. いざという時
(いつ地震が起きても大丈夫なようにする。)
・一週間は持つ水と食料と処方された薬を常備する。
・救急キットを常備する。
・緊急時に持ち出す「脱出カバン」を車と部屋のドアの前に常備する。

災害事前対策は一晩ではできません。 小さな事を少しずつ家で、職場で、学校で、近所で地区でしていかなればなりません。 個人で家族で団体で、そして政府でなしていきます。

1906年のサンフランシスコ地震の100周年記念からまだそれほど経っていません。 これをよい機会と考え対策の一歩を踏み出してください。

----------------以上翻訳-----------------------

「過去の古い方法が間違いだとわかり、新しい革新的な方法に塗り替わる。」といった話題は人気がありますが、それだけに情報の信頼性に注視していきたいですね。

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283月/112

「命の三角形」を信じてはいけない理由


この記事は「命の三角形」で述べられていた、「自身の時に机の下や車の中にいてはいけない。 すぐ横に入れば助かる可能性が高い。」という内容についての反論記事の翻訳になります。

命に関わることですので、このような情報は誰がどのような根拠を元に発信しているか確認して下さい。

記事原文は元記事からもリンクされてますが下記にあります。
http://www.snopes.com/inboxer/household/triangle.asp
ちなみにこのサイトは「都市伝説」について語るページです。

リンク先の参考文献、というかコップ氏についてかなりきつめの批判をしている外部記事の翻訳はまだ行っていませんので英文のままです。

専門家による Doug Copp の記事への批判」の翻訳も行いました。

------------以下翻訳--------------
上記の自称"熟練レスキュー"のダグ・コップによって示された地震時の安全確保方法[命の三角形]がすべて間違っているかどうか私たちには言えません。 しかし読者がこの記事(特に"隠れて潜る"方法を選んだ人が全員死んだというアドバイス)を眉に唾をつけて読んだほうが良さそうな説得力のある理由はいくつかあります。

1) アメリカ赤十字の災害対策専門家達は「トルコなど別の国での地震の経験から得た見地を建築基準が根本的に異なるアメリカでは適応できない」と論じています。

我々アメリカ赤十字では地震時の対策について調査・研究の分析を長年にわたって行っています。 我々は専門的・学術的研究組織であるカリフォルニア州政府危機管理局,カリフォルニア州地震防災委員会の広範囲に渡る研究の恩恵を受けています。同研究では推奨されている"伏せて潜ってしっかり掴まる!"方法についても研究されています。 個人的にも1933年の大地震よりカルフォルニアで行われてるこの地震教育の恩恵を受けています。

コップ氏の主張が見落としているのは,「伏せて潜ってしっかり掴まる!」は合衆国の建築基準に基づく合衆国での推奨であるという点です。 ですが多くの調査で"伏せて潜ってしっかり掴まる!"方法により多くの命が合衆国内で救われていることが確認されています。 技術研究では他国では半壊・全壊するような揺れでもアメリカの建物はほとんど倒壊しないことが実演されています。大地震で一つの建物が半壊し、数千の建物が無傷で残った時に半壊した建物の写真だけをウェブサイトで公開する事は不適切であり誤解をまねく物となります。

2) ダグ・コップ氏の調査方法と結論は他の災害対策専門家によって批判されています。

コップはトルコで自身が体験した"実験"をその証拠としていますが、残念ながらあまり知られていないことですがこれは全くもって"実験"などではありません。 どちらかといえば任意団体の捜索・救助訓練です。トルコにいる私の同僚は解体予定のビルを捜索・救助訓練のために利用したのですが、その時の訓練ではマネキンが建物内のいくつかの場所に配置され、実際にいくつかのマネキンが大きく頑丈な物の横で無傷で見つかることがありました。

さて、では何が問題なのでしょう? 彼の主張が正しいように思えます。 問題点は単純なことです。 ビルをパンケーキ崩壊させるために訓練では柱を破壊しました。 つまり地震の再現を全く"していなかった"のです。 地震は波なので横揺れを生じ、その横揺れによって様々な損害を引き起こします。 訓練では横揺れを全く再現していないのですから、地震の際に何が起こるかがこの実験からでは何もわからないのです。

3) ダグ・コップはワールドトレードセンターでもレスキュー活動を行ったと主張しています。 『彼はこの時した(と一応は言われている)怪我の補償で65万ドル(当時の円ドル相場で7600万円)を受け取っている』
Albuquerque[アルバカーキ] Journal(米国の地方メディア)はいくつもの記事で彼がレスキュー活動の専門家というより利己的な日和見主義者だと述べています。

自称レスキューの第一人者のダグ・コップの話によると彼のレスキューは非常に重要なためニューヨークへ入ることだけでなく離陸禁止の民間航空輸送の使用が認められていたらしい。彼はレスキューで中心的な役割を果たし、生存者・被害者の捜索のために"毒のスープ"の中を勇猛果敢に進み、そのためにうけた恐ろしい負傷の功績として65万ドル近くを受け取っている。 だが、コップが本当にレスキュー活動をしていたという証拠は乏しく、彼が補償金を受け取るべき人間があるかどうかは疑わしい。
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ダグ・コップは64万9000ドルを免税で9/11テロの補償基金団体より受け取っている。 彼はそれが十分ではないと言うが、そもそも彼が何かを受け取るべき人間なのかどうか疑わしい。 メディアの調査によるとコップが本当にニューヨークでレスキュー活動をしていたという証拠は乏しい。 彼が瓦礫の山に向かった理由は、メディアに売るためのビデオを撮ることだったのだ。 彼は治療が受けられる場所を探していたと言うが時間に矛盾が生じる。 コップのデマカセの典型的な事例である。

(他の数多の Albuquerque Journal の記事ではコップ氏と関わった人達の不平と彼が合衆国司法省の詐欺対策課に捜査されてる事が記述されています。)

どうかアメリカ赤十字やアメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁(Federal Emergency Management Agency)、地震地域連合(Earthquake Country Alliance)などの地震対策専門家によって確立された安全対策にしたがって行動するようにしてください。

Last updated: 24 April 2010
------------以上翻訳--------------
訳 2011/03/28 by Tetsu
修正 2011/03/29 トルコでの実験部分 「倒壊」を「パンケーキ崩壊」に修正。
修正 2011/04/17 kagami 氏にコメント欄で指摘いただいた箇所を修正。

外部リンク一覧

アメリカ赤十字のDoug Copp の記事への返信
http://www2.bpaonline.org/Emergencyprep/arc-on-doug-copp.html
専門家による Doug Copp の記事への批判
http://www.cert-la.com/RejoinderToDougCopp.pdf
Albuquerque Journal の記事 (PDF:68ページ)
http://www.abqjournal.com/terror/copp.pdf

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